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6月第2週から、新聞各紙で、安倍政権が3年で法人税の実効税率を20%台まで下げる方針を固めたことが報じられている。

法人税の実効税率とは、法人の利益に対して課される法人税、住民税、事業税の税率の合計のことだ。自治体によって差はあるが、東京都の場合だと、2014年6月時点では約35.6%となる。

欧州やアジアでは、実効税率が20%台だ。日本も同水準まで下げて、日本企業が税負担の重さを嫌って海外に移転するのを防ぎ、また、海外からの国内への投資を増加させる狙いがある。

落ち込む税収は外形標準課税で調整


法人税率を引き下げるということは、それだけ税収が減るということだ。

産経新聞の6月11日付の記事によると、法人実効税率を1%下げると国と地方の税収は合わせて4,700億円減るそうだ。3年で法人実効税率を20%台まで下げる場合、今よりも6%は税率を低くすることになるので、減収額は3兆円近くになる。

これだけの税収減の穴埋めについて、政府は外形標準課税の強化を図る方針だ。外形標準課税は、企業の利益ではなく資本金や従業員数などに応じて課税する方式だ。つまり、赤字の企業でも税金を負担しなければならないのが外形標準課税の特徴なのだ。


筆者は、儲かっている会社から多くの税金を徴収する方が良いと考えている。おそらく、そのように思っているのは筆者だけではないだろう。

法人実効税率を下げることは、儲かっている会社の税負担を減らすことになる。反対に外形標準課税の強化は、赤字会社の税負担を重くする。そのため、外形標準課税の強化については慎重に行っていただきたい。


法人税の減税では理論上投資は増えない


法人税の実効税率が下がることで、浮いた税金だけ企業の投資が増えて、景気が上向くのなら、税収は今よりも増えるのではないかという期待もある。そのようになれば外形標準課税を強化しなくても、国や自治体の財政は潤うはずだ。

しかし、法人税率を下げたからと言って、投資が増えるということは理論上あり得ない。反対に法人税率が上がったからと言って投資が減るということも理屈の上では起こらない。どういうことかを今から簡単に説明する。


企業に資金を提供しているのは、大きく分けると銀行などの金融機関と株主だ。企業側から見ると、前者は負債、後者は自己資本となる。

負債であれ自己資本であれ、資金提供者は、必ず企業に見返りを求める。金融機関であれば元本に上乗せして利子を要求するし、株主であれば配当や株価の上昇という見返りを求める。

こういった資金提供者が要求する見返りを資本コストという。


今、ある企業が設備投資を行おうとしている。必要な資金は借入か新株発行で賄うことになるが、その時に必要となる資本コストは、以下の計算式で求めることができる。
shihoncost.png

銀行が要求する見返りは利子率iで表される。また、株主が求める見返りは税引後配当収益率eで表される。銀行と株主が要求する見返り、借入金比率α、法人税率tを上記の式に入れれば資本コストが計算できる。

仮に法人税率0.4、借入金比率1.0、利子率と税引後配当収益率を0.1とした場合、つまり、投資に必要な資金の全額を借り入れで賄った場合の資本コストの計算は以下のようになる。

shihoncost2.png

上記式を見ればわかるとおり、資本コストは0.1となる。これは、新たな設備投資によって10%の利益を獲得しなければならないということだ。そして、借入金比率が100%の本事例においては、

  • 資本コスト=利子率i=0.1

となる。


法人税率の引き下げによって、設備投資を増やそうという動機が企業に働くというのなら、法人税率引き下げによって資本コストも下がらなければならない。

先ほどの事例では法人税率が40%であったが、30%に引き下げた場合、資本コストはどうなるであろうか。税率30%の時の資本コストの計算は以下の通りだ。なお、その他の条件は同じとする。

shihoncost3.png

上記計算例を見ればお分かりだろう。資本コストは、税率40%の時も30%の時も利子率iに等しい10%だ。

法人税率を下げても資本コストは下がらない。つまり、理論上、法人減税によって投資の増加を期待することはできないのだ。

「法人税は投資に対して中立」と言われるのはこういうことだ。


資本構成を変えればどうなるのか?


上記の計算例は、設備投資資金の全額を借入で賄っているので、自己資金も加えたら計算結果が違ってくるのではないかと指摘する方もいることだろう。

なかなか鋭い指摘ではあるが、資本構成を変えても資本コストに変化はないというのが答えだ。これは、MM理論という財務論の考え方で立証されている。ただ、MM理論は「完全市場のもとでは資本構成を変えても資本コストは一定である」という結論なので、これに修正を加える必要がある。

MM理論においては、法人税は無視されている。

借入金の利子は法人税法上の費用(損金)として認められるので、利子を払えば払うほど、その負担は少なくなる。そのため、設備投資の全額を借入で賄うのが、最も資本コストを低くする手段と考えられる。

しかし、借入金はいずれ返済しなければならないので、借入金比率が高まれば高まるほど、返済スケジュールが厳しくなり、最悪の場合は返済不能となって倒産ということにもなりかねない。倒産のリスクは株主がすべて負担するので、借入金比率が高まれば、その分だけ株主が要求する配当も多くなる。

すなわち、借入金比率を高めるほど利子の節税効果は高まり資本コストを下げる働きをするが、それは倒産のリスクを高めるので、反対に株主が要求する配当が多くなり資本コストを上げる働きもする。

結局、資本コストの下降と上昇が相殺されるので、法人税や倒産リスクを加味しても、最適資本構成は存在しないことになる。

そして、最適資本構成が存在しない以上、法人税率をどの程度にするかといったことは、設備投資に一切影響を与えないのだ。


それでも法人減税で投資は増える


理論的には、法人減税によって投資が増えることはない。

しかし、筆者は、法人税率の引き下げによって設備投資が増えるのではないかと考えている。その理由は、多くの企業経営者や財務担当者は、上記の理論を知らないからだ。

政府が、法人税率を引き下げるから積極的に投資をしてくださいと訴えれば、多くの企業は浮いた税金だけ設備投資をしようという気になるだろう。そうすれば、どんなに理論上は間違っていても、世の中の金回りが良くなるので、景気が上向くのではないだろうか。

ただ、減税を理由に設備投資をしたはいいけど、いつまでたっても利益が出ないという企業が出てくるかもしれないのだが。最も得をするのは、政府と日本企業の動きを静観している海外の投資家なのかもしれない。
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