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11月30日に国内製薬大手の武田薬品工業が、新社長にイギリスの大手製薬会社「グラクソ・スミスクライン」の子会社の社長クリストフ・ウェバー氏を次期社長に迎えることを発表した。正式就任は2014年6月の取締役会後ということだ。

ゴーン氏が日産のトップに就任して以来、国内企業が、海外から社長を迎えることが行われるようになっているが、製薬業界では異例ということだ。

武田の思惑


各種報道機関のニュースによれば、今回、武田が外国人社長を起用する理由は、海外製薬会社と収益で見劣りする武田の世界市場での生き残りだとか、武田がグローバルで競争力のある会社になるためだとか言われている。

クリストフ・ウェバー氏は、きっと優秀なリーダーになるのだろう。だからこそ、武田は日本人ではなく外国人のウェバー氏を選んだに違いない。

現在の武田の海外売上高比率は50%を超えている。このような収益状況から考えると、今後も海外での活動が重要となるに違いない。現在でも、重役9人のうち外国人が5人を占めており、重要案件の決定がなされているようだ。

国内市場の成長が鈍化している現状を打破するためには、海外での販売網を広げていくことが重要だ。だからこそ、武田はクリストフ・ウェバー氏を次期社長に選んだわけだ。

しかし、筆者は、この「国内市場の成長の鈍化」という言葉に違和感を覚える。自動車産業などが国内市場が頭打ちになり、海外に販路を求めることは理解できるが、製薬会社がこのような考え方で海外売上を伸ばそうとするのはどうなのだろうか。

国内市場の成長の鈍化は国民にとっては良いこと


製薬会社の業務は、当たり前のことだが、病気で困っている人のために薬を研究開発することだ。

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国内だけでなく海外にも難病で苦しんでいる人はたくさんいる。だから、武田が外国人社長を起用して、海外の販路を拡大することは、世界中で苦しんでいる難病患者を救うことになる。これは実にすばらしいことだ。

しかし、国内市場の成長が鈍化していることが、海外での販路拡大を目指す理由というのは事情が違うのではないか。

国内市場の成長鈍化をいいように解釈すれば、病気で苦しむ国内の患者を救ってきたということではないだろうか。そう考えると、市場の成長が鈍化するということは、製薬会社のおかげで病気で苦しむ人の数が減りつつあるということで、非常に喜ばしいことだ。

ただ病人が減るということは、製薬会社の売上も減るということだ。国内市場が拡大していくためには、国内の病人の数が増えることが必要だ。人口増加社会においては、一定割合で病人が出てくるだろうから、製薬会社の売上は自然と伸びる。毎年、冬になれば一定割合で風邪をひく人が出てくるわけだから、風邪薬を作り続けているだけでも、人口が増えている限りにおいては売上は伸びるのだ。

ところが、現代のような人口減少社会ではそうはいかない。人口が減れば、風邪をひく人の数も減る。そうなれば売上も減少する。だから、収益を伸ばすためには、たくさんの人がいる海外の国を目指すしかない。これは、他の産業と同じだ。

治っては困る病気への依存


病気を治すための薬を研究開発し販売することが、製薬会社の使命であるのは間違いない。しかしながら、製薬会社が安定的に収益を上げ続けるためには、他の産業と同じようにリピーターの存在も必要になる。飲食店なら、美味しい料理を提供することで、客はまたこの店に来たいと思うだろう。だから、料理やサービスの質を高めることに努力すれば、リピーターの獲得につながる。

しかし、製薬会社の場合は他の産業とは事情が違う。どんな難病も1錠飲めば完治する薬を開発してしまうと、リピーターが減ってしまうからだ。例えば、タバコの吸いすぎで肺ガンになったとしよう。現在は、なかなか治すことが難しい病気だ。しかし、ある製薬会社が肺ガンの特効薬を開発し、その薬を肺ガン患者が服用して治れば、もうその薬に頼る必要はなくなる。そして、苦しい思いをしたのだから、不摂生を止めて健康に気を使うことになるだろう。

つまり、良い薬を作れば作るほど製薬会社のリピーターは減るわけだ。おそらく、こういった薬を開発し続けたのでは、製薬会社は継続的に儲からないだろう。

製薬会社が継続的に稼ぐためには、未知なる病気が発生し続けることをすぐに思い浮かべるが、他にも継続的かつ安定的に稼ぐ方法がある。それは、病気を完治させるのではなく、つらい症状を緩和する薬を販売することだ。

風邪をひいた人は、熱が出たり、下痢をしたり、のどが痛くなったりする。こういった症状は風邪が治れば、自然とおさまる。しかし、風邪が治らなくても解熱剤を飲めば熱は下がるし、のどの痛みも緩和される。薬の効果が切れて苦しくなれば、また、同じ薬を服用して症状を緩和すればいい。患者がこういったことを繰り返してくれれば、製薬会社は同じ患者に何回も薬を購入してもらうことができるわけだ。

こういった対症療法に製薬会社が依存すればするほど、病人の数は減るどころか増え続ける。現在、治療できずに症状を緩和することしかできない病気がたくさんある。しかし、ある時、医師や科学者がこういった難病を治す方法を考えてしまうと、こういった治療薬の需要は一気に減るだろう。これは製薬会社にとっては重大なリスクだ。

症状を緩和するだけの薬にどれだけ頼っているのか


2012年度の武田薬品工業の有価証券報告書をダウンロードした。武田が、症状を緩和するだけの薬にどれだけ依存しているのかを知るためだ。

武田の有価証券報告書によると、連結売上高は1兆5,572億円だ。医療用医薬品の主要品目の売上高は、1位が高血圧症治療剤「カンデサルタン」の1,696億円、2位が2型糖尿病治療剤「ピオグリタゾン」の1,229億円となっていた。

これらの薬がどういうものなのかをおくすり110番というサイトで調べてみたので以下に一部を引用する。
  1. カンデサルタン:血圧を上げる「アンジオテンシンⅡ」という体内物質をおさえる作用があります。これにより、体の血管が広がり、また水分や電解質が調整されて血圧が下がります。心臓や腎臓の負担を軽くする効果も期待できます。(中略)長期維持療法に適します。
  2. ピオグリタゾン:このお薬は、インスリンに対する体の感受性を高める作用をします。結果的に、インスリンの働きがよくなり、血糖値が下がります。おもに、2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)に用います。日々の血糖値を適切に保つことは、将来起こるかもしれないさまざまな合併症の予防につながります。

どちらも病気そのものを完治する薬ではなく、症状を緩和するもののようだ。だから、高血圧も2型糖尿病も、この薬では治らない。継続的に症状を抑えるわけだから、リピート率の高い薬と言える。連結売上高全体の実に18.8%をこの2つがたたき出しているわけだ。

どちらの薬も売上が前年よりも落ちているが、新たな2型糖尿病治療剤のネシーナが国内売上378億円となり、ピオグリタゾンの売上減少をカバーできたようである。こちらも症状を緩和する薬で糖尿病を完治するものではない。

高血圧も糖尿病も苦しんでいる患者はたくさんいる。だから、製薬会社もこれらの病気を治すための薬の研究をしていることだろう。しかし、そのような薬ができてしまったら、主力となっている症状を緩和する薬の売上が激減するはずだ。ここに製薬会社のジレンマがある。

国内の医療費は毎年右肩上がりに増えている。

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症状を緩和するだけの薬が売れれば売れるほど、高齢化が進む日本では医療費が増え続けるだろう。しかし、こういう状況が続かないと業績が悪化する製薬会社も多いのではないだろうか。

だからと言って、病気が治ってもらうと困ると考えている製薬会社があるとは思いたくない。病気を治す薬を開発すると症状を緩和するだけの薬の売上が減少する。この辺りのかじ取りが製薬会社の経営の肝になるのだろう。

クリストフ・ウェバー氏の手腕に期待しようじゃないか。
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